海外の情報
多発性硬化症
Multiple Sclerosis
本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。
英語版最終アクセス確認日:2024年12月
多発性硬化症(Multiple sclerosis:MS)は、中枢神経系の疾患です。多発性硬化症では、神経細胞を覆うミエリンを免疫系が攻撃します。多発性硬化症の症状には、筋力の低下(手と足に多い)、うずきや焼けつくような感覚(灼熱感)、しびれ、慢性疼痛、協調運動やバランスの問題、倦怠感、視覚障害、膀胱をコントロールしにくくなることが挙げられます。また、多発性硬化症の患者は、気分が落ち込んだり、考えがまとまらなくなったりすることがあります。
多発性硬化症は、若年層が罹患する最も一般的な障害性神経疾患です。一般的に20歳から40歳の人が発症し、女性に多く見られる疾患です。米国では約40万人、世界では約250万人が罹患しています。最も一般的なのは、症状が出たり出なかったりする「再発寛解型多発性硬化症」と呼ばれるタイプです。
多発性硬化症を治癒する方法はありませんが、いくつかの従来の治療により、症状を改善し、再発の回数や重症度を減らし、疾患の進行を遅くすることが可能です。多発性硬化症を患う多くの人々は、何らかの補完療法を試しますが、特別な食事(例えば、飽和脂肪が少なく、魚油などの多価不飽和脂肪酸を多く摂る食事など)やダイエタリーサプリメント(栄養補助食品)(eJIMサイト内:一般向け・医療関係者向け)を試すことが多いようです。
要点は?
ヨガのような補完療法は、多発性硬化症のいくつかの症状を緩和するのに役立つかもしれません。どのダイエタリーサプリメントも多発性硬化症に有用であるというエビデンス(科学的根拠)はありません。
- 心理的・身体的アプローチ
- ヨガを実践することは、倦怠感や気分の改善には役立つかもしれませんが、運動能力や思考力には役立ちません。
- 多発性硬化症の症状に対する 鍼治療の可能性を検証した研究は少数であり、ベネフィット(有益性)を指摘した研究は、方法に厳密性が欠けているとの批判を受けています。
- リフレクソロジー(足の裏に圧力を加える)は、多発性硬化症に伴う灼熱感やチクチク感を軽減するかもしれません。しかし、信頼できる結論を出すには、より大規模な研究が必要です。
- ダイエタリーサプリメント(栄養補助食品)
- その他の補完療法
- パルス磁気療法 (電流を流して磁場を発生させる装置)に関する研究では、多発性硬化症に関連する倦怠感に対して得られた結果はまちまちです。
- 蜂針または蜂毒による療法 (生きた蜂を体の所定部位に載せ、刺させる)は、多発性硬化症の症状や病気の進行に対する効果はないようです。
- THC/カンナビノイドとして知られるマリファナに含まれる化学物質は、多発性硬化症患者の痙縮や疼痛を緩和するかもしれません。米国では多発性硬化症の治療薬としてマリファナ由来のいかなる医薬品も米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)に承認されていませんが、カナダと欧州の一部の国では、多発性硬化症に関連する筋肉制御を目的として、THCδ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC delta-9-tetrahydrocannabinol:THC)とカンナビジオール(cannabidiol:CBD)を含む植物由来のカンナビノイド処方薬であるマウススプレー「Sativex」が承認されています。マリファナを吸うことが多発性硬化症に役立つかどうかは不明です。マリファナ植物(マリファナ由来のカンナビノイド成分ではない)のベネフィット(有益性)が、治療対象となる患者において、リスク(危険)を上回ることを示す十分な大規模臨床試験は実施されていません。
安全性
- リフレクソロジーやヨガは一般的に安全だと考えられています。
- 鍼治療は、訓練を受けた施術者が行えば、安全であると考えられています。
- 蜂毒療法は、生命を脅かす場合もあるアレルギー反応のアナフィラキシーを引き起こすかもしれません。
- カンナビノイド系薬剤は、必ず医師の処方と監視のもとで服用する必要がありますが、一般的に忍容性は良好です。これらは、めまい、不安、記憶や集中力の短期的および長期的な欠如を引き起こすかもしれません。ごくまれに、嘔気・嘔吐、便秘、口の渇き・口内炎などの症状が出ることがあります。
- マリファナには中毒性があります。
- マリファナを頻繁に吸う人は、タバコを吸う人が直面するのと同じ呼吸の問題(毎日の咳や痰、肺の病気の頻度上昇、肺感染症のリスク上昇)を抱えることになります。また、心臓にも影響を与える可能性があります。
- ダイエタリーサプリメントを検討する際には、"ナチュラル(天然) "は "安全 "を意味しないことを覚えておいてください。ダイエタリーサプリメントの中には、副作用を引き起こしたり、薬や他のダイエタリーサプリメントと相互作用したりするかもしれません。ビタミンDのようなサプリメントを過剰に摂取することは、有害であり、生命を脅かすことさえあります。
多発性硬化症に関するさらなる情報については、米国国立神経疾患・脳卒中研究所(National Institute of Neurological Disorders and Stroke のウェブサイト[英語サイト]、およびMedlindPlus[英語サイト]をご覧ください。
さらなる情報
■ NCCIH 情報センター
米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)の情報センターは、NCCIHに関する情報、ならびに連邦政府が管理運営する科学・医学論文データベースから関連する文献や検索・調査などを含む補完・統合医療に関する情報を提供しています。情報センターでは、医学的なアドバイス、治療の推奨、施術者の紹介はおこなっていません。
米国内の無料通話:1-888-644-6226
テレコム・リレー・サービス(Telecommunications relay service:TRS)7-1-1
ウェブサイト: https://www.nccih.nih.gov[英語サイト]
E-mail:info@nccih.nih.gov(メール送信用リンク)
■ 国立神経疾患・脳卒中研究所 (NINDS; National Institute of Neurological Disorders and Stroke)
NINDSは、脳や神経系がどのように機能するかについての研究や神経疾患の治療に関する研究を行っています。
Multiple Sclerosis Information Page(多発性硬化症情報ページ)[英語サイト]
米国内の無料通話:1-800-352-9424
ウェブサイト: https://www.ninds.nih.gov[英語サイト]
■ 科学を知ろう
NCCIHと米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、科学研究の基礎と用語を理解し、自分の健康について十分な情報を得た上で意思決定できるようにするためのツールを提供しています。科学を知ろうは、インタラクティブなモジュール、クイズ、ビデオなどのさまざまな教材や、消費者が健康情報を理解できるように設計された連邦政府のリソースから有益なコンテンツへのリンクを提供しています。
Explaining How Research Works(研究のしくみを知る)[英語サイト](NIH)
科学を知ろう:科学雑誌の論文を理解する方法
Understanding Clinical Studies(臨床試験を理解する)[英語サイト](NIH)
■ PubMed®
米国国立医学図書館(National Library of Medicine, PubMed®:NLM)のサービスであるPubMed®には、科学・医学雑誌に掲載された論文の情報(掲載号、出版年月日など)および(ほとんどの場合)その論文の要約が掲載されています。NCCIHによるPubMed使用のガイダンスは、「補完・統合医療に関する情報をPubMed® で検索する方法」をご覧ください。
■ MedlinePlus
健康に関する質問に答えるのに役立つリソースを提供するために、MedlinePlus(米国国立医学図書館のサービス)では、国立衛生研究所をはじめ、他の政府機関や健康関連組織からの信頼できる情報をまとめています。
このサイトの情報は著作権で保護されておらず公開されています。複製も奨励されています。
監訳:大野智(島根大学) 翻訳公開日:2025年6月19日
当該事業では、最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、編集作業に伴うタイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。