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冠動脈性心疾患に対するキレーション療法:知っておくべきこと
Chelation for Coronary Heart Disease: What You Need To Know

本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。

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英語版最終アクセス確認日:2025年10月

心疾患は、米国では男女ともに死亡原因の第1位です。冠動脈性心疾患(冠動脈疾患とも呼ばれる)は、心臓の動脈が十分な酸素を含んだ血液を心臓に十分に送り届けられないタイプの心疾患です。これは最も一般的な心臓病であり、年間37万人以上の死亡原因となっています。治療法には生活習慣の改善(心臓に良い食品の選択や禁煙など)、薬物療法、場合によっては医療処置が含まれます。

EDTA二ナトリウム(エデト酸二ナトリウム)を用いたキレーション療法は、冠動脈性心疾患の補完療法として用いられてきました。このファクトシートでは、冠動脈性心疾患に対するキレーション療法と、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)が資金を提供した2つの大規模研究を含むキレーション療法に関する研究について説明します。

キレーション療法とは?

キレーション療法は、金属やミネラルと結合させるための物質を静脈内(血管を通じて)に投与し、それらを尿中排泄により体外へ排出させる治療法です。心疾患の補完的治療として使用する場合、治療コースは週1回の点滴を20~40回、各回数時間かけて行う必要があります。患者は通常、高用量のビタミン・ミネラルの錠剤も併せて服用します。

冠動脈性心疾患に対するEDTAキレーション療法は、米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)に承認されていますか?

冠動脈性心疾患に対するEDTAキレーション療法の使用はFDAによって承認されていません。

冠動脈性心疾患に対するキレーション療法について、どのような研究結果がありますか?

冠動脈性心疾患に対するキレーション療法については、NIHの助成による2つの大規模研究、すなわちTACT(Trial to Assess Chelation Therapy)とTACT2(Trial to Assess Chelation Therapy 2)が終了しています。

キレーション療法評価試験(TACT)

  • TACTは2003年から2011年にかけて実施され、2013年に結果が報告されました。TACTに参加した1,708例は50歳以上で、少なくとも1回心臓発作を起こしたことがありました。参加者は、EDTAまたはプラセボによる40回の治療と、高用量のビタミン・ミネラルまたはプラセボの錠剤を投与する群に無作為に割り付けられ、どちらの治療を受けているかは知らされていませんでした。
  • 全体として、キレーション療法は心血管イベントをわずかに減少させました。しかしながら、さらなる解析の結果、この有益な効果は糖尿病患者においてのみ認められたことが明らかになりました。
  • 参加者の約3分の1を占めた糖尿病患者は、約5年間で、あらゆる心血管イベントのリスクが全体で41%減少し、心疾患、非致死的脳卒中、非致死的心臓発作による死亡リスクが40%減少し、心臓発作の再発リスクが52%減少し、あらゆる原因による死亡リスクが43%減少しました。
  • 高用量のビタミン・ミネラルは心血管イベントを減少させませんでしたが、安全であるように見えました。しかしながら、多くの人がビタミン・ミネラルまたはプラセボ(偽薬)の錠剤を服用するのをやめたり、研究から脱落したりしたため、研究者たちはこれらの結論について完全に確信を持つことはできませんでした。
  • TACTはキレーション療法の有用性を示した最初の臨床試験であったため、その結果だけでは、糖尿病患者における心臓発作後の治療としてキレーション療法を日常的に使用することを支持するには不十分でした。第二の研究であるTACT2は、糖尿病と心臓発作の既往歴のある人を対象としたTACTの結果が再現できるかどうかを確認するために行われました。

キレーション療法評価試験2(TACT2)

  • TACT2は2016年から2023年にかけて実施され、結果は2024年に報告されました。本試験には、合計1,000例が試験に登録され、実際に点滴を受けたのは959例でした。参加者は全員50歳以上で、糖尿病を患い、研究参加前に心臓発作を経験していました。TACTの参加者と同様に、彼らはEDTAまたはプラセボによる40回の治療と、高用量のビタミン・ミネラルまたはプラセボの錠剤を服用する群に無作為に割り付けられました。また、自身がどの治療を受けているかは知らされていませんでした。
  • 参加者は、EDTAまたはプラセボの連続点滴の前後で、血中鉛および尿中カドミウムレベルが測定されました。これらの測定は、EDTAキレーション療法によって体内の金属濃度が低下しているかどうかを検証するために研究に組み込まれました。鉛やカドミウムなどの重金属への慢性的な曝露は、心血管疾患と関連しており、これらの金属の除去がEDTAキレーション療法のベネフィット(有益性)に関与しているかもしれません。
  • この研究では、EDTAキレーション療法は鉛濃度を低下させましたが、心血管イベントは減少させませんでした。心血管イベントはEDTA群(35.6%)とプラセボ群(35.7%)で同程度の割合で発生しました。EDTA群では血中鉛濃度が61%減少しましたが、プラセボ投与群では有意な減少はみられませんでした。尿中のカドミウムレベルは、キレーション療法による治療直後に大幅に上昇しました。このように、EDTA療法は鉛とカドミウムの両方をキレートし、排泄を促進するのに有用でした。
  • TACT2における高用量ビタミン・ミネラル服用の有用性はまだ報告されていません。
  • TACT2はTACTの結果を再現しなかったため、その結果は、糖尿病と心臓発作の既往のある人の心血管リスク軽減のためのキレーション療法による治療の使用を支持するものではありません。

TACTとTACT2の結果が異なるのはなぜですか?

その理由はまだわかっていません。TACT2のデータをさらに解析することにより、説明がつくかもしれません。1つの可能性は、2つの研究集団の違いが原因かもしれないということです。TACT2の参加者は、TACTの参加者に比べて心疾患がより進行しており、心血管イベントの発生率が高値でした。また、鉛への曝露レベルは、TACTよりも低かったかもしれません。しかしながら、こうした違いが2件の研究結果の違いを説明できるかどうかは不明です。

キレーション療法に副作用はありますか?

はい、あります。最も重要で重篤な副作用は、低カルシウム血症(血中カルシウム濃度の異常な低下)と腎臓への障害です。

TACTでは、重篤な有害事象はキレーション療法を受けた人の100例(11.9%)、プラセボを受けた人の127例(14.6%)に発生しました。TACT2では、重篤な有害事象はキレーション療法を受けた人の81例(16.8%)、プラセボを受けた人の79人(16.6%)に発生しました。

市販のキレーション療法製品は有用ですか?安全ですか?

FDAは、ダイエタリーサプリメント(栄養補助食品)、鼻腔スプレー、坐薬など、家庭用に販売されているキレーション療法製品を使用しないよう警告しています。これらの製品は、いかなる健康状態の治療薬としても承認されておらず、重篤な副作用をもたらすかもしれません。また、深刻な健康問題を抱えたときに医療を受けずに、キレーション療法製品に頼ってしまうと、害を及ぼす可能性もあります。

大量の鉛に曝露された場合はどうすればよいですか?

今かかっている医療機関※の診察を受け、必要に応じて治療を受けましょう。国立環境衛生科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences)[英語サイト]からは、鉛が健康に与える影響と、鉛への曝露を防ぐ方法について学ぶことができます。

さらに考慮しなければならないこと

  • 冠動脈性心疾患でキレーション療法を検討している場合は、まず循環器専門医またはその他の医療機関※に相談しましょう。キレーション療法に関する科学的研究から得られる情報を探し、検討しましょう。
  • 自身の健康を守るために、自分が行っている補完療法について今かかっている医療機関※に相談しましょう。そうすることで、十分な情報を得た上で意思決定をすることができます。

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関連ファクトシート

さらなる情報

■ NCCIH 情報センター(NCCIH Clearinghouse)

NCCIH 情報センターは、米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)および補完療法・統合医療に関する情報を提供しており、これには刊行物や、連邦政府の科学・医学文献データベースの検索結果が含まれます。情報センターでは、医学的なアドバイス、治療の推奨、補完代替療法の提供者の紹介はおこなっていません。

米国内の無料通話:1-888-644-6226
テレコム・リレー・サービス(Telecommunications relay service:TRS)7-1-1
ウェブサイト: https://www.nccih.nih.gov
Eメール:info@nccih.nih.gov(リンクは電子メールを送信します)

■ Know the Science(科学を知ろう)

NCCIHと米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、科学研究の基礎と用語を理解し、自分の健康について十分な情報を得た上で意思決定できるようにするためのツールを提供しています。「科学を知ろう」は、インタラクティブなモジュール、クイズ、動画などの多様な教材や、消費者が健康情報を理解できるように設計された 連邦政府のリソースからさまざまな有益なコンテンツへのリンクを提供しています。

Explaining How Research Works(研究のしくみを知る)(NIH)[英語サイト]
科学を知ろう:科学雑誌の論文を理解する方法
Understanding Clinical Studies(臨床研究を理解する) (NIH) [英語サイト]

■ PubMed®

米国国立医学図書館(National Library of Medicine, PubMed®:NLM)が提供するPubMed®には、科学・医学雑誌の出版情報と論文の要約(ほとんどの場合)が掲載されています。NCCIHによるPubMed使用のガイダンスは、「補完・統合医療に関する情報をPubMed® で検索する方法」をご覧ください。

ウェブサイト:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov[英語サイト]

(※補足:原文では、healthcare provider。米国では主に医療サービス等のヘルスケアを提供している病院/医師を指す。また、健康保険会社や医療プログラムを提供する施設等も含む。)

参考文献

その他の参考文献
  • Centers for Disease Control and Prevention. Heart disease facts. Accessed at cdc.gov/heartdisease/facts.htm on March 12, 2024.
  • Lamas GA. Chelation therapy: a new look at an old treatment for heart disease, particularly in diabetics (Cardiology Patient Page). Circulation. 2015;131(21):e505-e506.
  • Lamas GA, Goertz C, Boineau R, et al. Design of the Trial to Assess Chelation Therapy (TACT). American Heart Journal. 2012;163(1):7-12.
  • National Heart, Lung, and Blood Institute. Coronary heart disease treatment. Accessed at nhlbi.nih.gov/health/coronary-heart-disease/treatment on March 12, 2024.
  • NHLBI. What is coronary heart disease? Accessed at nhlbi.nih.gov/health/coronary-heart-disease on March 14, 2024.
  • Sultan S, Murarka S, Jahangir A, et al. Chelation therapy in cardiovascular disease: an update. Expert Review of Clinical Pharmacology. 2017;10(8):843-854.
  • U.S. Food and Drug Administration. Questions and answers on unapproved chelation products. Accessed at fda.gov/drugs/medication-health-fraud/questions-and-answers-unapproved-chelation-products on March 12, 2024.
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米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)は、個人の参考情報として、この資料を提供しています。この資料は、あなたが今かかっている医療機関の医療従事者の医学専門知識やアドバイスに代わるものではありません。NCCIHは、治療やケアについてあらゆる意思決定をする際、今かかっている医療機関に相談することをお勧めします。この資料に記載されている特定の製品、サービス、治療法のいずれも、NCCIHが推奨するものではありません。

更新日:2026年4月24日
監訳:時信亜希子(京都大学)、北山茜(国立国際医療センター)、大野智(島根大学)
翻訳公開日:2024年5月28日

ご注意:この日本語訳は、専門家などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、当ホームページの「ご意見・ご感想」でご連絡ください。なお、国立衛生研究所[米国]、国立補完統合衛生センター[米国]、国立がん研究所[米国]のオリジナルサイトでは、不定期に改訂がおこなわれています。
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