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ヨウ素
Iodine

- 写真に掲載している食材の成分表一覧
[補足]
本文中の必要摂取量、推奨摂取量、上限値・下限値等は米国人を対象としたデータです。日本人に関するデータについては「日本人の食事摂取基準(厚生労働省)」などをご参照ください。
日本人の食事摂取基準(厚生労働省)
本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。
英語版最終アクセス確認日:2024年12月
これは一般的な概要である。さらなる情報については、医療従事者向けファクトシートをご覧ください。
ヨウ素とは?その働きは?
体内で甲状腺ホルモンを合成するためにはヨウ素が必要です。甲状腺ホルモンは、体の代謝やその他多くの重要な機能を制御しています。また、妊娠中や乳幼児期の骨や脳の適切な発達のためにも、甲状腺ホルモンは体に必要です。ヨウ素を十分に摂取することは、すべての人、特に乳幼児と妊婦にとって重要です。
ヨウ素の必要摂取量は?
ヨウ素必要摂取量は、年齢によって異なります。下表に1日の平均推奨摂取量を、マイクログラム(μg)で示します。
ライフステージ | 推奨摂取量 |
---|---|
生後0〜6カ月 | 110 μg |
7~12カ月の幼児 | 130 μg |
1~8歳の小児 | 90 μg |
9~13歳の小児 | 120 μg |
14〜18歳の青年 | 150 μg |
成人 | 150 μg |
妊婦(10代も含む) | 220 μg |
授乳婦(10代も含む) | 290 μg |
ヨウ素はどんな食品から摂取できますか?
ヨウ素は一部の食品中に天然に含まれているほか、また「ヨウ素添加」と表示された塩にも添加されています。以下のようなさまざまな種類の食品を食べることで、推奨される量のヨウ素を摂取することができます。
- 一般的に、魚(タラやマグロなど)、海藻、エビなどの海産物にはヨウ素が豊富に含まれています。
- ヨウ素を多く含む乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズなど)、卵など
- ヨウ素添加塩は、米国をはじめ多数の国々で容易に入手可能です。
*缶詰のスープなどの加工食品には、ほとんどヨウ素添加塩が使われていません。また、海塩、コーシャ塩、ヒマラヤ塩、フルール・ド・セル(良質の塩田から取れる大粒の天日塩) などの特殊塩は、通常、ヨウ素添加されていません。製品ラベルには、その塩が「ヨウ素添加」されているかどうか、ヨウ素を含んでいるかどうかが記載されています。

市販されているヨウ素のダイエタリーサプリメントには、どのようなものがありますか?
市販されているサプリメントには、通常ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウムの形でヨウ素が含有されています。また、ヨウ素を含むケルプ(海藻)のダイエタリーサプリメント(eJIMサイト内:一般向け・医療関係者向け)も販売されています。
ヨウ素は足りていますか?
ほとんどの米国人は、食べ物や飲み物から十分なヨウ素を摂っています。しかし、特定の集団では、他と比べて十分にヨウ素を摂取できていない可能性があります:
- ヨウ素添加塩を使用していない人食塩へのヨウ素添加は、ヨウ素欠乏症を予防するために最も広く用いられている方法です。現在では、世界中の家庭の約88%がヨウ素添加塩を使用しています。
- 妊婦妊婦は、十分な量のヨウ素を胎児に供給するために、妊娠していない女性よりもヨウ素を約50%多く必要とします。調査によると、米国では多くの妊婦がヨウ素を十分に摂取していないかもしれませんが、これが赤ちゃんに影響を与えるかどうかは専門家にもわかっていません。
- ビーガン(完全菜食主義者:動物性食品を一切摂取しない人)、または乳製品、海産物、卵をほとんどあるいはまったく食べない人。海産物、卵、牛乳、乳製品は、ヨウ素の最も優れた供給源の1つです。これらの食品をあまり食べない、あるいはまったく食べない人は、十分なヨウ素を摂取できない可能性があります。
- ヨウ素欠乏土壌の地域に住み、主にその地元の食品を主に食べている人。このような土壌ではヨウ素含有量の低い農作物が生産されます。ヨウ素の少ない土壌が多いのは、ヒマラヤ、アルプス、アンデスなどの山岳地帯や、南アジア、東南アジアの河川流域などです。
- 限界量のヨウ素を摂取している人、ゴイトロゲン(甲状腺腫誘発物質)を含む食品も食べている人。ゴイトロゲンとは、体内でヨウ素が利用されるのを妨げる物質です。大豆や、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツなどのアブラナ科の野菜など、一部の植物性食品に含まれています。米国ではヨウ素を十分に摂取している人が多いので、ゴイトロゲンを含む食品を適量食べても心配はありません。
ヨウ素が不足するとどうなりますか?
ビタミンヨウ素欠乏症は、米国とカナダでは非常にまれです。ヨウ素の摂取量が不足すると、十分な量の甲状腺ホルモンを作ることができません。このような場合、多くの問題を引き起こす可能性があります。妊婦における重度のヨウ素欠乏症は、胎児の発育不全、知的障害、性的発達の遅れを引き起こし、胎児に回復不能な害を与える可能性があります。ヨウ素の欠乏症がそれほど深刻でない場合は、幼児や子供のIQが平均値より低下したり、大人の作業能力や理路整然とした思考力の低下を引き起こしたりする可能性があります。甲状腺腫(甲状腺肥大)は、ヨウ素欠乏症の最初の目に見える徴候です。
ヨウ素が健康に及ぼす影響にはどのようなものがありますか?
ヨウ素が健康にどのような影響を与えるのかを解明するための研究が行われています。ここでは、研究で明らかになったいくつかの例をご紹介します。
胎児・乳児の発達
妊娠中や授乳中の女性は、胎児および乳児の適正な発達・発育のために、十分な量のヨウ素を摂取する必要があります。母乳栄養児は、母乳からヨウ素を摂取します。しかし、母乳中のヨウ素含有量は、母親のヨウ素摂取量によって変動します。
“複数の米国国内の組織や国際組織では、胎児および乳児の正常な発育に必要な量のヨウ素を確実に供給するため、妊娠中または授乳中の女性や乳児に対し、ヨウ素サプリメントを摂取するよう推奨しています。米国甲状腺学会(American Thyroid Association)は、妊娠中の女性、妊娠を計画している女性、または授乳中の女性は、ヨウ化カリウムとして150μgのヨウ素を含むサプリメントを毎日摂取することを推奨しています。米国小児科学会(The American Academy of Pediatrics)も同様の指針を示しています。しかし、米国で販売されている妊婦用マルチビタミン(eJIMサイト内:一般向け・医療関係者向け)のうち、ヨウ素を含むものは約半分に過ぎません。
子供の認知機能
子供が重度のヨウ素欠乏症を発症した場合、脳や神経系の発達に有害な影響を及ぼします。子供が軽度のヨウ素欠乏症を発症した場合の影響を評価することは難しいのですが、軽度のヨウ素欠乏症は神経学的発達に軽微な問題を生じる可能性があります。
軽度のヨウ素欠乏症を発症した子供にヨウ素サプリメントを摂取させると、推論能力や全般的な認知機能が向上します。ヨウ素欠乏地域に居住している子供において、ヨウ素のサプリメントは身体および精神の両方の発達を改善するようです。軽度のヨウ素欠乏症とヨウ素のサプリメントの認知機能への有用性を完全に理解するためには、さらなる研究が必要です。
乳腺線維嚢胞症
有害ではありませんが、乳腺線維嚢胞症では乳房に痛みを伴う凹凸ができます。主に妊娠可能な年齢の女性に発生しますが、閉経後にも発生する可能性があります。非常に高用量のヨウ素のサプリメントは、乳腺線維嚢胞症の痛みやその他の症状を軽減できるかもしれませんが、確証を得るにはさらに研究が必要です。高用量のヨウ素は安全ではない可能性があるので、乳腺線維嚢胞症のためにヨウ素を摂取する場合は、事前に今かかっている医療機関※に相談してください。
放射線誘発性甲状腺がん
原子力(原発)事故は放射性ヨウ素を環境中に放出する可能性があるため、放射性ヨウ素に曝露された人、特に子供では甲状腺がんのリスク(危険)が増大します。放射性ヨウ素に曝露されたヨウ素欠乏症の人では、甲状腺がんのリスクが非常に高くなります。米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)は、放射線緊急事態における甲状腺がんのリスクを軽減するための甲状腺遮断剤として、ヨウ化カリウムを承認しました。
放射性ヨウ素治療のための低ヨウ素食
放射性ヨウ素治療は、一部の甲状腺がん患者の 治療 に用いられます。この治療を受ける患者には通常、治療開始の1~2週間前から低ヨウ素食(1日50μg以下)を摂るように指示されます。
低ヨウ素食を行う際に避けるべき食品は以下の通りです。*
- ヨウ素添加塩
- 魚介類、レバー、海藻類、牛乳・乳製品、卵
- ヨウ素酸塩を含む生地調整剤を使用したパン(製品ラベルの成分表示を確認)
- マラスキーノ・チェリー(アイスクリーム、パフェなどの添え物としてよく使われる、砂糖漬けされた甘いチェリー)や赤やピンク色の飲料。これらはヨウ素を含む赤色染料を使用していることが多いため。
- ケルプ製品や多くのマルチビタミン/ミネラルサプリメントなど、一部のダイエタリーサプリメント。(ヨウ素が記載されているかどうか、サプリメント成分表示を確認することが必要) Dietary Supplement Label Database(サプリメントラベル表示データベース)を検索することで、製品を見つけ、サプリメント成分表示を確認することが可能です。
* 食品の栄養成分表示のラベルには通常、製造者がヨウ素を添加した場合のみヨウ素が記載されています。海藻や魚など、ヨウ素を自然に含む食品は、通常、栄養成分表示のラベルにヨウ素は表示されません。したがって、ヨウ素を含む食品を識別するために、これらのラベルを信頼することはできません。
ヨウ素が少なく、低ヨウ素食を続けても問題ない食品には、次のようなものがあります:
- ヨウ素添加されていない塩**
- 果実、果汁、野菜、インゲン豆、ナッツ類
- 植物由来の代用乳(豆乳やアーモンド飲料など)
- 米、パスタ、オートミール
- 鶏肉、豚肉、牛肉(レバーを除く)
- ヨウ素酸塩を含む生地調整剤を使用していないパン(製品ラベルの成分表示を確認)
** ヨウ素化されていない塩(多くの海塩を含む)は食料品店で購入できます。さらに、米国では加工食品に使用されるほとんどすべての塩がヨウ素化されていません。製品ラベルには、製造者がヨウ素化またはヨウ素を供給する塩を使用したかどうかが記載されています。
低ヨウ素食を計画する際には、以下の資料が参考になるでしょう:
- 米国甲状腺学会(American Thyroid Association)の「Low Iodine Diet(低ヨウ素食)」[英語サイト]には、食事とおやつのガイドラインとメニューの選択肢が載っています。
- 米国農務省(U.S. Department of Agriculture:USDA)、米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)、およびODS-NIHの一般食品のヨウ素含有量データベース[英語サイト]は、ヨウ素含有のさまざまな食品や飲料を表記している。

ヨウ素が害を及ぼす可能性はないのですか?
過剰に摂取した場合は、有害な場合があります。高用量のヨウ素を摂取した場合、甲状腺腫(甲状腺肥大)などのヨウ素欠乏症と同様の症状を引き起こす可能性があります。ヨウ素の過剰摂取は甲状腺炎や甲状腺がんを引き起こす可能性もあります。非常に高用量(例えば数グラム単位)のヨウ素を摂取すると、口・喉・胃の灼熱感、発熱、胃痛、嘔気、嘔吐、下痢、脈拍微弱ならびに昏睡を引き起こす可能性があります。
ヨウ素の1日の上限値は、食品、飲料、サプリメントなど、すべての供給源からの摂取量を含み、以下の通りです。この値は、医療上の理由で医師の指導下でヨウ素を摂取している人には該当しません。
年齢 | 上限値 |
---|---|
生後12カ月 | 設定数値なし |
1~3歳の小児 | 200 μg |
4~8歳の小児 | 300 μg |
9~13歳の小児 | 600 μg |
14〜18歳の青年 | 900 μg |
成人 | 1,100 μg |
ヨウ素は、医薬品あるいは他のダイエタリーサプリメントと相互作用しますか?
はい。ヨウ素サプリメントは服用中の医薬品と相互作用を起こす可能性があります。以下に、いくつかの例を挙げます。
- ヨウ素のサプリメントは、甲状腺機能亢進症の治療薬であるメチマゾール(Tapazole)などの抗甲状腺薬と相互作用を有するかもしれません。抗甲状腺薬と高用量のヨウ素を併用すると、体内で甲状腺ホルモンの分泌が少なくなりすぎる可能性があります。
- ヨウ化カリウムとACE阻害剤として知られる高血圧治療薬を併用すると、血中カリウム濃度が危険なレベルまで上昇する可能性があります。ACE阻害薬には、ベナゼプリル(Lotensin)、リシノプリル(PrinivilおよびZestril)、フォシノプリル(Monopril)などがあります。
- ヨウ化カリウムをスピロノラクトン(Aldactone)やアミロライド(Midamor)などのカリウム保持性利尿薬と併用した場合にも、血中カリウム濃度が高くなりすぎる可能性があります。
あなたが使用しているすべてのダイエタリーサプリメント、処方薬、市販薬について、今かかっている医療機関※の医師、薬剤師およびその他の医療従事者に伝えてください。ダイエタリーサプリメントがあなたの服用している薬と相互作用し得るかについて教えてくれるでしょう。また、あなたが服用している薬が、体内での他の栄養素の吸収や利用に影響し得るかどうかについても説明してくれるでしょう。
ヨウ素と健康的な食生活
米国連邦政府の「米国の食事指針(Dietary Guidelines for Americans)」によれば、「栄養の多くを食品や飲料から摂取するべきである」と指摘されています。食品には、健康によいとされるビタミン、ミネラル、食物繊維やその他の成分が含まれています。場合によって、栄養強化食品やダイエタリーサプリメントは、他の方法では1つまたは複数の栄養素の必要量を満たすことができない場合(例えば、妊娠などの特定のライフステージ)に有用です。健康的な食生活の構築についての詳細は、「米国の食事指針(Dietary Guidelines for Americans)」[英語サイト]と米国農務省の「私の食事(MyPlate)」[英語サイト]をご覧ください。
ヨウ素に関する詳しい情報を得たい時は?
- ヨウ素に関する一般的な情報:
- 医療関係者向け:ヨウ素
- Iodine in Diet(食事に含まれるヨウ素)[英語サイト] (MedlinePlus)
- ダイエタリーサプリメント選択に関するアドバイス:
- 健康的な食事パターンに関する情報:
(※補足:原文では、healthcare provider。米国では主に医療サービス等のヘルスケアを提供している病院/医師を指す。また、健康保険会社や医療プログラムを提供する施設等も含む。)
更新日:2025年6月19日
監訳:大野智、的場千佳(島根大学) 翻訳公開日:2021年3月12日
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